2022.11.25

【全国屈指】静岡聖光学院の最新プログラミング教育について

 全国に先駆けてIT授業やプログラミング入試を導入されており、私立学校の中でも注目を集めている同校に、中高全体のプログラミング教育についてというテーマでお話を伺いました。 

話者:
田中 潤先生(静岡聖光学院中学校・高等学校 校長補佐 経営企画室長)
小森 雄斗先生(静岡聖光学院 情報科教員)
脇田 真太郎(エデュケーショナル・デザインCEO

 まず、中学⾼校を通して積極的にプログラミング教育を推進していらっしゃいますが、その背景にある⽬的を教えてください 

オープンな教室でプログラミング授業を行なっています

 小森先生:子どもたちが自主制作した文化祭の展示が目に留まったことがきっかけで、4年前にプログラミングキャンプを初開催しました。その際に教員が想像していた以上に子どもたちの技術と興味関心が高かったことが印象的で、プログラミング教育推進の入り口となりました。 

 田中先生:本校の理念は『建学の精神』、教育方針として『地の塩・世の光の担い手となる』があります。自分自身を見出しながら、何かと交わることで世の中に貢献をしていくという意味です。社会課題解決のための必須ツールはデジタルツールであることは間違いなく、例えば、何かの課題に直面した際にプログラミングスキルの有無によって、その人の行動は大きく変わってきます。自分自身が世の中に貢献していくための橋渡しになるのが少なからずデジタルツールであるという考えから、本校として必須であると判断しました。 

僕らの時代は資本や設備のある大企業に就職してある程度のポジションにならないと、アプローチができないという社会の仕組みだったけれども、アイデアさえあればテクノロジーを使っていろんなアクションができるパラダイムシフトが訪れています。時代の流れを読んで必要なことがすぐにできる時代になっているのです。そのためのツールを子どもたちに持ってもらう必要があると思っています。 

天井のない学び、学びの幅を持たせてあげたいなどのビジョンについてお聞かせいただけますでしょうか。 

田中先生:今までは一斉型の授業で子どもたちの能力や趣味趣向にフォーカスせずに、工場のベルトコンベアー方式に教育を流してきました。一方、価値をつくることが大切になってくるこれからの時代では、一人一人の学びのフェーズが違っていて当たり前です。そういった意味で学びたい子が好きなだけ学べる環境であり、教員のスキルによって天井をつくってしまっては駄目だと思っています。そこにはプロフェッショナルがいて、上から下まで天井のない学びを実現することが大切です。また、天井がないのとともに、乗り越えて入ってきやすいように『低い敷居』と子どもたちのたくさんの価値を飾れる『広い壁』がほしいです。キリスト教の考えを用いると、タラント(一人一人が持っている賜物)を活かすためには、そういう教育が必要になってきます。個別最適しようとすると、テクノロジーを活用することになるので、外部と連携しながら天井のない学びを実現しようとしているところです。 

脇田:リカレント教育の流れの中、中高時代から入口が低く、いろんな角度から学びを吸収できる環境があるのはいいですね。 

田中先生:遊ぶように学ぶことが大事だと思います。リカレントの時代は人生を通して学び続けていかなければなりません。だからこそ学ぶことに意味があり、楽しくて人生が充実するという状況は幸福学における幸せの定義です。学ぶこと自体が楽しくて幸せということを大人が体現して、それを6年間で子どもたちが考え方として身に付けることができるか否かが、これからの学校の価値になってくると思います。辛いことを強いることが善であるというのは変わってくるのではないでしょうか。 

脇田:私も学びと遊びと仕事の境界線を意識していないので、学ぶことが遊びのように楽しくなっていくのはとても良いことですよね。 

田中先生:熊は子どもから大人になる時期に無駄に木を搔きむしります。それは遊んでいる行為なのですが、脳がものすごく発達している瞬間でもあって、脳は抑圧されていない状況の方が発達するし、自発性も促されるし、ウェルビーイングです。選択肢として遊びと学びは一つのものであって、自分が楽しいからこそ続けることができるのではないでしょうか。本校の数学教員は、家でも食事をしながらパズルや数学の問いを説いていて、私からすると信じられませんが、彼は楽しそうです。そういうタイプがこれから幸せに生きていけるのだろうと思います。そのような人を育てたいと古い書物を読んでいても思うことです。 

9月に実施した高1講座は三越伊勢丹さまの仮想空間を主題としたアイデアソンも盛り込まれた特別授業でしたが、改めてご感想をお伺いできますでしょうか。 

三越伊勢丹の沖田様よりメタバースの事例をお聞きした上で、課題について話し合いました

小森先生:正直最初はなぜこの時期なのかと子どもたちはネガティブな意識でしたが、始まってみるとやればやるほどのめり込んでいく様が目に見えて分かりました。プログラミングを学習した流れでデザインも学び、最終的には文化祭を彩るポスターを制作するという目的を示した上で、自身のクラスで出し物をする生徒は宣伝するための内容を自分たちで考えていました。子どもたちの気分も乗っていましたし、良い作品も出てきました。そこまで想定していなかったのですが、子どもたちが自主的に印刷して掲示してくれて、最終的に実社会へアウトプットできた点が非常に良かったです。 

伝するための内容を自分たちで考えていました。子どもたちの気分も乗っていましたし、良い作品も出てきました。そこまで想定していなかったのですが、子どもたちが自主的に印刷して掲示してくれて、最終的に実社会へアウトプットできた点が非常に良かったです。 

脇田:アイデアソンのパートではメタバース上での自己表現の重要性に気付く感想もありました。その表現の方法の一つとして、後半のポスター制作がありました。文化祭のポスターというと集客目的が多いのかと想像していましたが、「コロナに気を付けよう」や「トイレのマーク」など様々な視点の作品があり非常に面白いと感じました。 

高校生においては、受験を意識した学び(情報Ⅰ)も重要かと思いますが、受験を意識した学びと今回のような創造性を引き出す学びのそれぞれが相互に重要とお考えでしょうか。 

柔軟な視点から多種多様なポスターが出来上がりました

小森先生:教科書の内容は受験対策のために必要なことですが、広く浅く実学要素の強い構成になっているので将来の役に立つのか疑問に感じてしまいます。楽しくワクワクできることが大事だと思っているので、創造性を高めるような内容、例えば今回のようなAbobeでポスター制作といった実社会で活きるスキルを教えてあげられれば子どもたちもワクワクできるのではないでしょうか。 

脇田:もちろん、それぞれ大事ではありますが、楽しい!ワクワクする!というのが前提としてあってほしいということですね。田中先生はいかがでしょうか。 

田中先生:私は情報Ⅰが悪いわけではなくて、扱う側の主体だと思っています。共通テストのプレテストを見ると参議院選挙のドント方式をプログラミングのコードで算出するという問題があったり、サッカーの試合の勝率をデータ解析しながら導き出すといった問題があるので、コードが独立するのではなく活用する手段や意味を見い出すことが大事だということは文科省からも示されています。それを学校に落とし込んだ途端にどうしても形を教えようとしてしまい、目的が変わっているのが問題点だと思います。創造性や受験勉強はサイクルのようになっていて、受験勉強の知識を使って何かを成し得てこそ勉強に意味を見い出せるので、相反するというよりも学び自体に価値を見い出すことが重要で、その価値を受験だけに置くことはできないです。単位を消化するために集中講義をしていると捉えた瞬間にスキルで終わってしまうので、そうさせないことが肝になります。学びは学びで大事だし、創造性は創造性で大事だけれども、そこは循環が成されているというイメージです。 

プログラミング教育を先導されている貴校の視点から、日本全体という観点においてどう在るべきかということや、学校内における今後の構想を教えてください。

田中先生:当校も含めて世の中の学校では、教科、プログラミング、探求といった形で縦割りになってしまっているところがあります。かつ、中等および高等教育において教育の早期化が起きています。探求がまさにそうです。そういった意味で、探求がベースとなりつつ、全部の教科やプログラミングなどが統合されていくことが大事だと思います。その中において探求学習は、世の中の課題を解決するための学びであり、自分の好きなものをとことん追求するための学びであり、それを支えるための知識や技能というのは教科的なものになります。民間スクールとしてプログラミングも存在すべきと思いますし、それを統合しながら課題に挑んでいける中高生たちが中等教育では必要で、だからこそそれを持って入学できるような大学側の受け入れ方が必要です。スキルだけを見るのではなく、その子どもが6年間で何をしてきたかを見てあげることが、プログラミング教育だけに限らず必要だと思います。  

脇田:首都圏私立・国立中学入試の受験者総数は8年連続で増加していて過去最多となっています。保護者が求めている傾向もありますが、スキルだけで向かっていくと方向性が違うことになりますよね。 

田中先生:そうですね。いま合理的に6年間で受験勉強をするという意味での早期化が促されています。そうではなくて、いろんなことにチャレンジして失敗できる環境を6年間であれば作れるという前提にしてあげないといけません。良い意味での早期化をしてあげないと、人的資本としての付加価値を高めていくことは難しくなると思います。 

脇田:雑な表現にはなってしまいますが、保護者がコストパフォーマンスだけで考えてしまうというのは怖いですよね。資本主義からするとそのような要素も必要かと思いますが、これまでのような受験競争が行きすぎてしまうと方向性がずれてしまう気もします。 

田中先生:私立自体が本来このような子どもを育てたいという方針を明確に打ち出せれば良いのですが、受験の結果だけにフォーカスしてしまった結果、ひとつひとつの私立の個性がなくなっています。原点に立ち返りながら自分たちの良さと世の中が求めているものをマッチングさせることが、これからの学校経営では必要なのだろうと思います。特に地方ではバリュープロポジションが薄まってきていることは事実なので、明確に打ち出していくことをここ2年間は実践していて、その結果、当校の受験生は増えてきています。 

脇田:バリュープロポジションが受験だけですと、そこの価値が低くなった場合、掛け算できないということですね。 

田中先生:そうなのです。安くてそれが出ていれば良いという、デフレスパイラルが起きてしまいます。そうではない付加価値を出すことが必要です。 

脇田: そこでしか食べられないレストランといった唯一の価値が大事になってきますよね。 

田中先生:そうですね。そのお店で食べるから付加価値が高くて美味しいハンバーグということが大事ですね。 


ICTの取り組みやプログラミング教育において、先端事例が多い静岡聖光学院のプログラミング教育事例や先生方のお考えを伺いました! 今、そしてこれからの社会にはどのような人材が必要なのかを常に深堀されており、それを学校教育にもいち早く落とし込んでいくお考えを改めてお聞かせいただけました。先生方、本日は貴重なお時間、誠にありがとうございました!